ガーベラのつぼみ

K二丁目

本の感想と、日常と。

ピクサーから学ぶイノベーションの起こし方

 

近年よく耳にする「働き方改革」は、労働生産性の向上が目的の一つであるが、将来的にはAIによる劇的なIT革命によって、「生産物そのもの」が大きく変わっていくだろうと予想される。すなわち、どのような付加価値を生み出すかに、今までよりも知恵を働かせなければならなくなる、ということだ。

 

とはいえ、それが何か、簡単にわかれば苦労はしない。藁にもすがる思いで手に取った本があるので、備忘録的に書いておく。その本は、『ピクサー流創造するちから』(2014年、著:エドウィン・キャットムル)だ。

 

エドウィン・キャットムルとは

ピクサー・アニメーション・スタジオ共同創設者。ピクサー・アニメーション、ディズニー・アニメーション社長。コンピュータ・グラフィックス分野における功績により、ゴードン・E・ソーヤー賞を含む5つのアカデミー賞を受賞している。ユタ大学でコンピュータ・サイエンスを専攻し、博士号を取得する。

 

本書は、ピクサーの現社長であり創設者であるエドウィン・キャットムルが2014年に書いた書籍である。元々自らがアニメをつくる夢を持ち、その夢を形作ったキャットムルだが、初のロングアニメーション(トイストーリー)が大成功に終わった1991年から1年後、「感動するアニメを造り続けるピクサーを守っていく」という新たに情熱をそそぐ夢を抱き、その苦悩と奮闘する姿が描かれるとともに、守るべき思想や守るための具体的施策が本書に盛り込まれている。

そのうちの一部を、とりあげてみよう。

 

第1章 生命を吹き込む

“クリエイティブな発想において、役職や上下関係は無意味だ。”

“たまたま正方形のテーブルを置いた小さめの会議室でミーティングをしたときに、[中略]そのテーブルではお互いの顔がよく見え、意見交換も自然に活発になり、いつもより相互作用が働いた”

 

会議室に13年間置かれていた長細い会議机が、「全員でミーティングをする」こととは逆のメッセージを発信しており、阻害している要因に気付いた出来事である。役職者用に置かれていた名札も排除し、意見出しの活発化を図った。

 

 

第1章 生命を吹き込む

―ユタ大学とコンピュータ・グラフィックス

“学生は研究室に迎え入れられると、作業スペースとコンピュータをあてがわれ、あとは学生自身の興味に任され、好きなテーマを追求できた。そのおかげで、互いに協力し、支え合う刺激的な環境が生まれ、私はのちにピクサーでこの再現に努めることになる。”

 

キャットムルが入学したユタ大学大学院の研究室での出来事である。テーマを自分で自由に決めることができ、かつ同級生(仲間)も同様な環境にいることが研究の質に大きく影響したそうだ。(同級生のうち、フォトショップ・PDFで知られるアドビを共同設立した者がいたり、オブジェクト指向プログラミング等数多くの分野を開拓した者がいたりと、こうした仲間の存在が重要だったと述べている)

 

第1章 生命を吹き込む

―コンピュータ・アニメーション映画への道

“クラスメイトたちと同じように、私が挑戦した研究が物になったのは、守られ、異種混合で、非常に挑戦しがいのある環境に身を置いていたからだ。実りある実験の場をつくるためには、多様な考えを持った人材を集め、その自主性を後押しすることが必要なことを学部の指導者たちはわかっていた。”

 

第4章 ピクサーらしさ

―いいアイデアといいスタッフ、どちらが大切か

“アイデアをきちんとかたちにするには、第一にいいチームを用意する必要がある、優秀な人材が必要だと言うのは簡単だし、実際に必要なのだが、本当に重要なのはそうした人同士の相互作用だ。どんなに頭のいい人たちでも相性が悪ければ無能なチームになる。”

 

言葉にすると、タイバーシティ&インクルージョン、ということであるが、その言葉を謳う多くの組織は、言葉が先行してしまって、実態が伴っていないことがほとんどではないだろうか。創造性を発揮するために指導者に求められるのは、指示ではなく環境づくりだということがうかがえる。

 

 

第8章 変化と偶発性

―“カールじいさん”の紆余曲折

“苦悶を通じてしか発見はない、だから変化は味方だ―この考え方に不安を覚える人も多いだろう。[中略]失敗したときのコストに比べれば、マイクロマネジメントがもたらす被害ははるかに小さいように思える。しかし、その必要な投資を避け、賭けに負けたことを知られるリスクを恐れてコントロールを強化すれば、創造性を妨げる頭の固いマネージャーに成り下がってしまう。”

日本は特に多いように感じられるが、失敗を極端に嫌うものが多い。それはプライドからくるものだったり、上への「忖度」がそうさせているのかもしれない。

 

第10章 視野を広げる

―(1)全員で問題解決(デイリーズ)

“つくりかけの作品や中途半端なアイデアを人に見せて恥をかきたくないし、監督の前でまぬけなことを言いたくない。そこでピクサーではまず最初に誰もが途中段階の作品を見せ合い、誰もが提案できることを教える。それが理解できると、恥ずかしい気持ちが消え、恥ずかしい気持ちがなくなると、人はもっと創造性を発揮できるようになる。問題解決の苦悩を安心して話し合えるようにすることで、皆が互いから学び、刺激を与え合う。その行為そのものが人間関係を実り多いものにする。”

 

子どもの時ですら、人は恥をかきたくないと思っている。しかし、一方で、信頼のおける友人や家族には、むしろその恥を相談というかたちで積極的に発信することもある。自尊心を傷つけず、自分の信頼を低下させないとわかる場であれば、恥を捨て去り、創造性を発揮することができるのではないだろうか。